FC2ブログ
源氏物語はやっぱりストーリーの王道だった!

源氏物語はやっぱりストーリーの王道だった!

 
わたしの手元に3冊の本がある。与謝野晶子訳の源氏物語である。高校生の時、本屋さんにいって、読書好きならこのくらい読んでないとね、という思春期ならではの背伸びした気分で、分厚い文庫を買い求めたのだ。

その頃は平安の宮廷という設定になじめず、冒頭から読むことは断念した。有名な、源氏のおりなす男女関係についても、具体的な描写は一切ない。あらゆることがぼかされている。

いつそういうことになったの? 
たかだか高校生ではあっさり惑わされてしまう。今まで読んだ本とは全く違う。読者が想像で補うことをこんなに求めてくるコンテンツがあったろうか。

ぱらぱらと目についた章を読んでみると、紫の上の切ない恋愛感情を面々と描写して、心が締め付けられたことがあった。
なんだ、十分わたしも共感して読める物語じゃないか。無駄なものを買ってしまった、と少し後悔したこともあったが、わたしは本を手元に置くことにした。

人物の関係が複雑なことで定評がある源氏物語だが、読む前にこういう枠組みを頭に入れておくと、なんのことだかが、わかりやすい。

まず、桐壺帝と源氏。
この親子は藤壺をとりまく三角関係である。義母を寝取るという、サブカルもびっくりの寝取られ設定だ。そして藤壺はのちの冷泉帝を生む。桐壺は美しい人は似るものだね、と源氏の前で無邪気に笑う。美しい人とはもちろん源氏のことである。さぞかし冷や汗をかいたろう。

二千円札に、作者とされる紫式部とともに描かれているのが、冷泉帝と源氏である。お札が手元に来たら、一度デザインをよく見てください。

自分が義母を愛してしまったあやまちを繰り返すまいと、源氏は、息子の夕霧には絶対自分の愛する紫の上を見せなかった。自分を棚に上げて、その用意周到ぶりにはちょっとひく。しかし、ちょっとひくことどころではないことが、源氏物語の読者を待ち受けている。

源氏の皇室でのライバルは兄である朱雀帝だ。右大臣の娘の朧月夜は、朱雀帝のもとへ入内するはずだった。が、月夜にあっさり源氏に口説かれてしまう。朧月夜の家は政敵であるにもかかわらず、源氏は彼女とアフェアを続けていく。彼女は朱雀帝の尚侍となるが、源氏とまた復縁してしまう。

源氏とよいライバル関係、かつ悪友、親友なのが、左大臣家の頭中将(とうのちゅうじょう)だ。彼の妹が源氏の正妻で、結びつきは強い。

教科書に出てくる夕顔は源氏の腕の中で急死してしまう。実は彼女こそ頭中将が探していた昔の恋人で、彼との娘もいた。それが玉鬘といい、源氏は後見人となって彼女を愛でる。玉鬘をめぐり、冷泉帝、蛍の宮、鬚黒大将らがかぐや姫ばりの求婚合戦を繰り広げる。果ては同じ父の子であると知らない柏木まで恋文をよこす始末である。

源氏の息子夕霧と、上に述べた頭中将の息子柏木も年が近く、好敵手であり親友である。夕霧の正妻は柏木の妹、雲居雁(くもいのかり)だ。夕霧とは幼馴染で、初恋の二人はめでたく結ばれる。

時がたって、源氏は女三宮(おんなさんのみや)という朱雀帝の娘をめとる。しかし柏木が彼女を垣間見(かいまみ)してしまう。源氏ほどの高貴な人の妻が、よその男の目に触れることなどもってのほかだが、猫がすだれのひもにからまって、すだれを巻き上げてしまうのだ。

柏木は血筋も含めて女三宮に恋こがれ、まず彼女の猫を手に入れる。それでも恋情つのってついに関係を持ってしまう。やがて女三宮は子を産む。薫である。

源氏は、柏木と彼女の関係を知り絶望する。相手は息子同然の青二才だ。薫が自分の子でないこともはっきりとわかった。そこで自分が父帝に隠したつもりの罪も、本当は知られていたのではないか、と源氏は心の底から戦慄するのである。源氏物語は壮大なる因果応報の物語なのだ。

源氏からパワハラを受けて柏木は精神を病み、亡くなってしまう。柏木の未亡人は女三宮の姉、二宮だ。彼女と老母をお見舞いしていた夕霧は、幼馴染と結婚した物語きっての堅物パパだった。が、なんと夕霧は、これぞ大人の恋だ! とばかりに親友の未亡人を妻にしてしまう。

最終的に夕霧は月に十五日ずつ二人の妻のもとで過ごすことにする。源氏の息子なのに、あくまで生真面目である。

最後のライバル関係は、朱雀帝の孫である匂の宮(におうのみや)と、源氏の子、薫だ。出生に陰のある根暗の薫と、やんちゃな匂の宮は、性格も名前も対になっていて、ストーリーを作る絶好のコンビだ。

宇治といわれるチャプチャーで、二人は山にこもる大君、中の君、そして浮舟の三姉妹と出会う。実際に中の君をめとるのは匂の宮だが、薫は大君を失って、浮舟と結ばれる。好きものの匂の宮が浮舟を奪って逃避行する。彼女は薫との愛と、宮との肉体の恋の間で苦悩する。有名なラストを飾るストーリーだ。

ここにあげた三角関係と数々の人間関係が、壮大な物語の中で、無数の、しかも見事なフラクタルをなしている。

主人公源氏がこよなく愛したとされている女性が紫の上だ。源氏は母を亡くして家族は祖母だけだった。紫の上も、父である式部卿宮(兵部卿宮とも呼ばれた)に認知されず、母と死別し、祖母に育てられる。この二人は生い立ちからして、相似形なのだ。

似たもの同士が結びつくので、それは温かく満たしあう関係性にはなりにくい。二人の場合、同じものが欠けているのだ。ありていにいえば、傷の舐めあいでしかない。

満たされないものを埋めようと、源氏はさまざまな女君(おんなぎみ)たちと付き合う。冷泉帝の実父として准太上天皇の位を贈られ、六条に夢のような邸宅を築き六条院と呼ばれる。しかし、栄達をきわめても、いくら恋愛をしても、彼の欠乏は渇いたままだ。求めても求めても充足しない、源氏のこの欠乏感こそが、ストーリーの推進力となっている。

単なる女たらしのお話と侮るなかれ。源氏物語は、主人公が心の安寧を求める壮大なヒーローズジャーニーなのだ。

0 Comments

There are no comments yet.

Leave a reply